カルロス・ゴーン・ビシャラ元日産社長兼CEOは2018年11月、空港で東京地検特捜部に身柄を拘束され、逮捕されました。
実際に受け取っていた給料を少なく報告したという金融商品取引法違反の罪です。
その後、関西国際空港から音響機材搬送用の箱に隠れ、自らが保有するビジネス用ジェット機にて保釈中の身でありながら密出国し、レバノンへ逃亡しました。
氏は日本にも慣れ親しんでいましたが、なぜレバノンを選んだのでしょうか?
それには彼の生い立ちが関与しています。

レバノンで市場不具合が起きると、大変でした。
祖父の時代からレバノンにかかわりが深かった
氏の祖父の名はビシャラ・ゴーン。
氏の本名、カルロス・ゴーン・ビシャラはおじいさんから名前を頂いているのです。
ビシャラ・ゴーンは祖国におけるイスラム教スンニ派、シーア派の対立や先の見えない貧困から脱するため、若干13歳の時にレバノンからブラジルへ渡りました。
そうして数十年、遮二無二働いたおかげで、ブラジルに渡った時に言葉もろくに話せなかった少年はいくつもの会社を経営する名士になっていました。
氏にとってこの祖父は特別な存在であったのです。
といってもビシャラ・ゴーンは胆のうの手術を受け、53歳という若さでこの世を去っていますので、会ったことはありません。
しかし、ビシャラ・ゴーンの子供たち、氏にとっての年上の親族たちから聞かされていた祖父の成し遂げた偉業、清廉潔白であった人柄は幼いゴーンに強い印象を植え付けました。
その偉大な祖父が生まれた土地というだけでもレバノンは氏にとって特別な場所であったでしょう。
ゴーン自身がレバノンで育っている
氏は生まれはブラジルですが、6歳の時にブラジルからレバノンへ移り住んでいます。
というのも、ゴーンが生まれたポルト・ベーリョは自然豊かな土地ですが、川が汚れており、飲用にするには一度煮沸消毒しなければなりませんでした。
ところが、お手伝いさんが煮沸しない水をゴーンに飲ませ、胃をひどく痛めてしまったのです。
そうして、水のきれいなところで過ごした方がよいという医師の忠告を受け、レバノンへ移ったのです。
このレバノンでの暮らしはゴーンが17歳でフランスの大学へ入るまで続きました。
幼少期から日本で言う中学、高校を過ごしたレバノンは氏にとってまさしく故郷でした。
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レバノンでの市場不具合は大騒ぎ!
私が日産系サプライヤで勤務していたころ、レバノンで市場不具合が起きました。
それが車の持ち主が氏の友人だというので、日産自動車本体を巻き込んで、蜂の巣をつついたような大騒ぎになったことがあります。
氏は日産社長時代も年1度はレバノンに視察へ出かけるほど祖国に執着していました。
このことからも氏は生まれ故郷のブラジルよりもレバノンを祖国と考えていたふしがあります。
なぜ大学からはフランスへ?
母の影響
ローズという名のゴーンの母親はレバノンでカトリック系の学校を卒業したこともあり、大の親仏家でした。
パリに行くと、母はたちまち生き生きする、という氏の言葉通り、文化、教育、音楽となんでもフランス寄り。
当然氏もフランスに傾倒していきます。
親戚つながり
高等教育終了時にフランスの大学入学資格試験に合格していた氏にはレバノンか、フランスの大学かの選択肢がありました。
アメリカも検討しましたが、「学費が高く、手が出なかった」とのことです。
氏の従兄の一人はフランスの商科系グランゼコール (高等商業学校)を卒業し、パリの銀行に勤めていました。
その従兄を頼り、同じグランゼコールへの進学を決めたのです。
その後、ミシュラン、ルノー、日産と輝かしい経歴が続きました。

日本とレバノンの関係
氏は15億円もの保釈金を払い、海外渡航の禁止という条件付きで保釈となりましたが、その後レバノンへ逃げ込みました。
日本とレバノンには犯罪者に対する引き渡し条約がありません。
レバノン政府の協力なしには日本はレバノンに逃げ込んだ犯罪者を確保できないのです。
2020年1月7日、大久保武駐レバノン特命全権大使とミシェル・アウン・レバノン大統領は会談を実施し、レバノン側はゴーンが不法に出国しレバノンに到着したことは遺憾である旨を伝えており、さらに、日本との外交関係を重視し協力を惜しまないと話していますが、未だ彼は自由の身です。
ただ、現在のレバノンは政府が財政破綻状態にあり、住宅向けの電気も1日1時間、インフラも機能しているとはいいがたい状態です。
氏はこういった状態の祖国で何を考え、どんな生活をしているのでしょうか。
強欲振りなど批判も多い人でしたが、間違いなく優秀なビジネスマンであっただけに、残念です。
清廉潔白で誰からも愛されていたという祖父の様に、己の非を認め罪を償って欲しいものです。
引用元
アングル:救急通報もダウン、レバノンに電話とネット停止の危機 | ロイター
「カルロス・ゴーン経営を語る」:日本経済新聞社

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